早稲田大学ラグビー蹴球部に女子部誕生(1)
ラグビーをよく知らない人でも「早慶戦」「早明戦」といった言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
『たまきたPAPER』2024年夏号の「編集後記」では書きましたが、編集長は東伏見に土地勘があり、早稲田大学東伏見キャンパスが身近だったため「早稲田大学ラグビー蹴球部女子部に女子部発足」の情報をキャッチ。4月18日に早稲田大学大隈会館(新宿区)で行われた記者会見を取材してきました。
今回は、女子部のプレーヤー・スタッフと、彼女たちを指揮するヘッドコーチのコメントをお送りします。設立に向けて最初に活動した4人の学生は、幼いころからプレーしていたラグビーを通じての知り合いでした。記者会見で赤黒ジャージを着ているのがその4人。彼女たちの熱意に呼応するように大学やOBが動き、メンバーが集まり、記者会見の時点で部員は11名。ラグビー未経験者も共に、公式戦での勝利に向けて動き出しました。
今回は大学教育からの視点として恩藏直人部長(同大学教授)、また男子ラグビーからの視点として柳澤眞Director(同大学ラグビー蹴球部OB)のお話をお送りします。
ご挨拶/設立の意義について
恩藏直人 早稲田大学ラグビー蹴球部 部長(早稲田大学商学部学術院教授)
今日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
4月1日に女子部のスタートをホームページで公開したとき、非常に多くの問合せをいただきました。当時はここまで注目していただけるとは思っておらず、「正しい情報をお伝えする必要がある」と感じ、今日の記者会見を開くに至りました。
部活動における男女差
大学と部活動という点でお話ししますと、早稲田大学の前身である「東京専門学校」は1882(明治15)年10月21日に大隈重信によって創設されました。1897年に現在の「早稲田大学競技スポーツセンター」の全身、早稲田大学体育部という組織が生まれました。
現在、競技スポーツセンターが統括するのは44部です。これらの部活動に参加する女性は全2,527人名のうち877名(34.7%)となっています。ラグビー蹴球部で見ると、これまで女性はマネージャーなどのスタッフのみで、競技をする女性はいませんでした。
今回、ラグビー蹴球部に女子部をつくりたいという話を受け、大学を含めた議論が始まりました。
海外では、オックスフォード大学で1988年から、ケンブリッジ大学で1988年から、ハーバード大学で1981年から、スタンフォード大学で1977年から、すでに女子ラグビーの取り組みが行われており、国内の六大学では現在、早稲田大学が初の女子部創設となります。
女子部を作ることによって、男子も含む早稲田大学ラグビー蹴球部全体を活性化させるとともに、大学部活動の一環に留まらず、日本全体のラグビーを活性化させたいと考えています。
女子部設立の経緯
柳澤眞 早稲田大学ラグビー蹴球部 女子部 Director
本日は大変お忙しい中、お越しいただきまして誠にありがとうございます。
私は2003年卒業の早稲田大学ラグビー蹴球部のOBです。当時は清宮監督の就任2年目、初めて日本一を獲った時の4年生になります。ポジションはフルバックでした。現在はラグビーを離れており、大手IT企業に勤務しています。
女子部の組織としては、部が二つに分かれたということではなく、早稲田大学ラグビー蹴球の中に女子部門ができたという形です。
まず15人の部員を集め、きちんとした成績を残した上で5年後に独立した女子ラグビー部という部門への昇格、イコール男子と並列の立場になることを目指します。
女子部創設の経緯
早稲田のラグビー部で男子と同様にラグビーをやりたいという女子学生がいるという話を聞いて、立ち上げの中心メンバーになる彼女たちと初めて出会ったのが2023年5月です。そのとき、文武両道を目指して早稲田大学に入ったにも関わらず、女子には「勉強の道を取る」「ラグビーを取る」という二択しかないという話を聞きました。25年前、私が学生の時は、勉強とラグビー、両方できる環境があるのは当たり前で、その選択肢が女子にないということに驚きました。
それまで女子ラグビーへの思い入れはありませんでしたし、当時はまだ彼女たちが本気なのか半信半疑でしたが、まずは彼女達が置かれている現状を理解することに決めました。そしてすでに女子ラグビー部がある大学など、現場に行って調べたり、早稲田のラグビー部として交流のあるオックスフォード大学、ケンブリッジ大学など、カルチャー的に先進的なところでどういう取り組みをしているのかも確認しました。
最終的に、ラグビー界をリードしている早稲田大学ラグビー蹴球部の現状を考えると、このような女子の声から変化を起こして、自分自身も行動を起こすことが大事だと考えて8月にラグビー蹴球部との交渉に至りました。それからこの4月までの間は主に太田尾監督といろいろ議論させていただきました。
特に体制の話では議論を重ねました。グラウンドは一つしかなく、男子は日本一を目指している組織でもあります。その男子の傘下に入れるのかということと、日本一を狙っていく中で女子部の財源をどうやって捻出するかということです。最終的には、男女別の組織という形が両者にとってベストではないかということになりました。
個人としての葛藤
私は男子のラグビー部をよく理解していますので、このような取り組みが男子にも少なからず影響するということもあり、私自身は今悩みというより、それを超えた葛藤、責任の重圧を感じています。
早稲田大学ラグビー蹴球部は、全国のラグビーをする児童、生徒が目指している組織で、誰でも入れるわけではありません。入部後も、部員150人の中で赤黒という早稲田の伝統ジャージを着ているのはたった15人です。赤黒を着られずに卒業する人が圧倒的に多いのです。そういう男子のカルチャーの中に、当時4人しかいなかった女子をどういうふうに融合していくのか。私自身にとっても本当に愛すべき早稲田大学ラグビー部ですから、今も葛藤しながら進めているという状況です。
そこに直線的な解はないのかなと思っています。まずは男子が大切にしているカルチャーを女子にも伝えて大切にしてもらうことが大事ですし、お互いがリスペクトしていくことで、この取り組みが前に進むと思っています。
早稲田大学は影響力がある組織ですし、最終的には日本のラグビー界にとって、女子がラグビーをするのが当たり前になるというぐらいのことが、将来的に起こせればと思っています。
以上、大学、ラグビー蹴球部からの視点でのコメントをご覧いただきました。
次回は女子部のプレーヤー・スタッフと、彼女たちを指揮するヘッドコーチのコメントをお送りします。