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第四話 東大和のステンドグラス工房

**【『たまきたPAPER』2016-2017年冬号掲載記事を再編集】**

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スポットライト 技ある場所を照らす灯

貴重な技術を持ちながら、地元ではあまり知られていない企業やお店。
そこを照らすと、奥に隠れた物語が浮かび上がります。

Glass Studio URUGA
http://www.urugamasaki-artworks.com/

多摩湖にほど近い場所にあるコンクリートづくりの工房は、東京で初めてて11月の積雪を観測したこの日、白く透明な雪に包まれ静謐(せいひつ)さを増していた。

グラススタジオウルガでは、建築物の扉や窓にはめ込むステンドグラスを専門に制作する。ステンドグラスと聞き、赤や青の原色のガラスを使ったインパクトの強い教会のそれを連想したが、工房で目にしたものはそのイメージと大きく違っていた。

代表の宇留賀さんは、「ガラスは光が透過して輝く主張の強い素材。建築物とどれだけ控え目に調和させるかに最も神経を使う」という。日本の家屋に溶け込む、もの静かなステンドグラス。それは、宇留賀さんの人柄と感性、技術が生み出すものだ。依頼主の好みや思いを聞き、自らデザインを描き起こし、それに沿って手作業でガラスを切り出す。宇留賀さんがつくるステンドグラスの黒い線の部分、鉛のフレームは、通常ステンドグラスで使用されるものよりも細い。その幅は小さいもので2~3ミリ。それにより繊細でなめらかな線の表現が可能となるが、フレームの幅が小さければ小さいほど、そこにはめ込むガラスのふちの部分も幅が小さくなる。フレーム幅が3ミリであれば、ガラスがはまる部分は1ミリ。そこにガラスを収めるためには、凹凸が出ないように削り磨く、高い研磨技術が必要となる。

使用するガラスは、ドイツの職人が手作業で作った一枚板の吹きガラスや、自ら切り、研磨した宝石のようなカットガラス。時間も技術も必要とされるガラスを自らつくり、ステンドグラスに使う制作者は片手で数えるほどしかいないという。

東大和には、5歳のときから住む。水道局に勤める父は、湖の近くで勤務することが多かった。多摩湖もその一つ。周辺を知っていた父がこの場所を選んで家を建て、渋谷区から転居した。小学校、中学校、高校と、市内の学校に通い、美術科のある大学に入学後は、油絵を学んだ。学生時代には、ものづくりの現場を見るために、たびたびバイクで旅に出た。目的地は決めなかった。「走っている途中に何かを作っているらしい場所があれば飛び込んでその手仕事を見せてもらった」。

大学卒業後、兄から紹介されたステンドグラスの個人工房で、無給で手伝いをしながら技術を覚えた。その後、ディスプレーの会社に就職してステンドグラス部門で制作を担当し、技術を磨いた。しかし、企業では、顧客の満足よりも利益を優先しているように思えた。純粋に依頼主の思いを叶えるステンドグラスをつくるため、東大和市の自宅に工房を構え、独立した。

ものづくりは幼いころから好きだった。「言葉を覚える前から折り紙を無心に折っていた」という生来からの志向に加え、母の影響も大きいという。宇留賀さんは三人兄弟の三男。父は二人の兄の教育において自らの考えを貫いたが、兄たちと歳が離れた宇留賀さんの教育については「好きなように育てていい」と母に委ねた。母は舞台や美術などに積極的に触れさせ、ものづくりの現場を見せた。
「母はクリスチャンで、僕が中学生のときに、クリスマスに教会に来られなくなった高齢者夫婦のために何か作ってあげてほしい、と言ったんです。それでセロファンを使って、ステンドグラスに似た窓の飾りを作ってあげたことがありました。何年かたって母がその方を訪ねたら、まだそれが飾ってあったんだそうです。自分の喜びが人の喜びにもなっているということに気づき、感動しました」。

ガラスに限らず、さまざまな素材でものをつくることを愛する。趣味で演奏するベースを作りたいと思えば、楽器製作の学校に通って技術を身に付け、実際に演奏ができるベースを木で作り上げる。家庭では、妻が台所に立っていれば「僕に作らせて」と調理を代わる。
「寝るのは好きじゃないんです。その間に何かをつくったり、職人の仕事を見たりしていたい」。

取材中、宇留賀さんがある動画を見せてくれた。ドイツの職人が赤く熱され溶けたガラスを吹き、1メートルを超えるような大きな筒を作る。その側面を縦に一断ちして広げると、長方形のガラスができた。「この技術、すごいでしょう。何回見ても鳥肌が立ちます」とはしゃぐように話す目が、カットガラスのように奥行き深く透明な光をたたえていた。

宇留賀さんの作品「月と魔女」。ガラスの模様や立体的な加工、フレームの曲線などで細やかに表現する。強度も高く、百年単位で受け継ぐことができる。

デザインに合わせてガラスを切る作業。依頼主の好きな音楽を聞くなど、可能な限り使う人の気持ちや好みを理解しながら作品を仕上げていく。

 

カメラレンズ職人が認める研磨技術で、透明度の高いガラスを立体加工する。さまざまなガラス素材、技術を用いることで、光も豊かな表情を見せる。

 

■2年後の取材後記

取材に伺ったのは11月に大雪が降った日でした。宇留賀さんは違う日にしましょうと電話をくださったのですが、むしろこの雪のしんとした空気の中でステンドグラスを撮りたかった記者原田は雪にまみれながらなんとか工房へ。

迎えてくれた宇留賀さんは、「大変だったでしょう…かわいそうに」と言って、奥さまに「何か温かいものを出してあげて」とお願いしてくださいました。そんな宇留賀さんの手から創り出される、奥行きのある空気感のステンドグラスと

工房の空気で心がほどけてしまい、少し涙してしまいました。誠意にお応えしたいと記事も一生懸命書き、宇留賀さんは「今まで書いてもらった中で一番よく書いてくれている」と、記事をとても気に入ってくださいました。心を尽くしてつくる、対応するということを忘れてはいけないと、今改めて思います。

宇留賀さんの作品は、2018年12月1日から東大和市のふるさと納税返礼品にもなっています。

▼こちらから返礼品を見ることができます

https://www.furusato-tax.jp/city/product/13220

原田あやめ

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